「今起こったことをありのまま話すぜ!?」

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俺は誤ってお気に入りのセーターをご家庭の洗濯機にぶち込んじまった…当然縮んださ。そりゃあもう小学校高学年でぴったりくらいまでギッチギチに、だ
そんな絶望の淵にいた俺はある噂を聞いた
『リンスが滑らかにするのは髪だけじゃない』
藁(わら)にも縋(すが)る思いっていうのは、こういう気持ちのことなんだって、頭ではなく心で理解したぜ…
明日(着る服)のために①
手元に用意するのものは
- 縮んじまった相棒(セーター)
- あったかいお湯
- リンス
- 希望
これだけあればいい
特に「希望」、こいつは結果に直結するから、必ず上質なものを2・3日かけて準備しておいてほしい
明日(着る服)のために②
まずは「あったかいお湯」に「リンス」を溶かし、「神の泉」を精製する

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俺の場合どういうわけか、6着も縮んじまったセーターがハンガーにぶら下がってやがったから、思い切ってバスタブに湯を溜めたんだが、そこは各々調整してくれ
要はリンスが溶けたお湯ができればそれでいいんだ
それよりも気になっているのは「なぜ、今、リンスなのか?」、そうだろう?
重要なのは最初に言った通り、『リンスが滑らかにするのは髪だけじゃない』ってことだ
ちょっと長くなるんだが、俺が理解している範囲で仕組みを説明するぜ?
セーターが縮むという現象
「OMG!縮んじまった!」という結果に気を取られ、その過程を理解することを怠っていると、物事の本質を見誤る
セーターが縮むということは、なにも寒くて縮こまっているわけじゃあない
セーターを形作る毛糸たちが、洗濯機の中で複雑な水流に揉まれ、回され、もともとの状態よりも右へ左へと激しく絡まってしまったために、短くなっているらしい
「絡まる」という過程を経て「縮む」という結果が生まれたってことだ
リンスが必要な理由
俺は男だし、天パだから、普段はリンスなんてしないんだが、「パサつく髪の毛を有効成分が補修して艶やかな髪を云々」みたいなTVCMならみんな見たことがあると思う
『傷んだ毛先を補修することは、絡まった毛糸をほぐすことに転用できる』
そういうことらしい
ここで注意しなくてはならないことは、どのリンスでも良いってわけじゃあないってことで、成分中にシリコンが入っているかどうかが、明日お気に入りのセーターを着られるかどうか運命の分かれ道になる
シリコン…?
「お前は今までに使ったシリコンの名前を憶えているのか?」
あの野郎ならそう言いそうだが、全くその通りさ、覚えちゃあいない
だから調べたぜ…そして出会った!
ジメチコン、シクロメチコン、シリル、シロキ、シラン
これらが成分名の一部にでも入っていたらシリコンです
日本毛髪化学協会会員のシャンプー鑑定サイトでこの文章を見たとき、俺が次に向かうべき場所はうちから徒歩7分のツルハに決まった
もちろん一番安くてシリコンが入ったリンスを探すためだ

▲ジメチコンが入っているぜッ
エッセンシャルダメージケアの詰め替え用リンス¥398を手に、俺は自宅へ急いだ
明日(着る服)のために③
原因と対策が分かったところで、実行してみなくっちゃ意味がない
まだ半信半疑だった俺だが、目の前には6着分のセーターを浸してちょうどいいくらい、深さにして10cm程度のリンス溶液「慈しむ神の泉」が湯気を上げている
ちなみに肝心のリンスの量だが、「1着につき3プッシュ分」とか「1プッシュで良い」とか、色々な噂があったしこちとら6着もあったので、大体ヤクルト2本分くらい入れておいたぜ
リンスのにおいを気にしなければ、シリコンの濃度が高いことは悪いことじゃないはずだろう?
そして俺は相棒を次々に泉へ放り込んだ
明日(着る服)のために④
ここからは実戦だ
セーターを一枚ずつ手に取り、泉の湯がすべての毛糸にいきわたるように優しく、確実に手もみしていく
揉むたびに手のひらを伝い行き場を求めて逃げ回る気泡の代わりに、ジメチコンが毛糸の繊維に侵入している状況に、生殺与奪の権利を手にした独裁者のような暗い感情がフツフツと湧いてくる自分を、俺は恥じた
全体になじんだら、両手でセーターの端を持ち、湯の中で小刻みにふわふわと揺らしながら少しずつ縦横に伸ばしてみる
「こいつ…伸びるぞ…!」
不意に光明が差し込むが、35歳はそこで安心したりはしない
乾かすときにまた縮む可能性が捨てきれないからだ
水の重さも手伝って、この時点で小学校高学年サイズのセーターの丈が、恥骨くらいまで伸びていた
(しかし素材の違いかカシミヤのセーターの伸びは、他に比べるとイマイチだった)
明日(着る服)のために⑤
次は脱水だ
重要なのはやりすぎないことだ
知っての通り、セーターが縮む原因は「毛糸同士が絡まること」なので、遠心力にものを言わせて振り回す「脱・水」という行為は、その大きな原因になりえる
俺は時間にして約30秒、洗濯機がルンルン言う音が最高潮になる前に停止した、まるで当て馬さ
セーターってやつは驚いたことに、それでも水が滴るようなことはなかった
明日(着る服)のために⑥

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ついに「干す」までたどり着いたぜ
リンスの香りをまとった6着の相棒たちを見てみると、泉の中で泳いでいたころよりは多少小さくなったかもしれないが、明らかにサイズアップしている
試しに湿ったまま来てみると、以前はベルトの3㎝上にボトムがきていたセーターが、今やベルトの下5㎝くらいの大きさになっている
絶望が歓喜に変わる瞬間を、俺は体験した
肩がエクボにならないよう幅の広いハンガーに掛け、セーターを両面から挟むように丁寧に掌で伸ばしながら形を整えていく
これで完成だ
その結果とさらなる未来へ
次の日、早速袖を通してみたんだが、乾いて小学校高学年用のサイズに戻ることなく、むしろリンスのおかげでなんとなくふわっと仕上がってるんじゃないかと思うほど、満足のいく結果を得られた
ひとつ反省があるとすれば、丈はバッチリだったものの、腕部分の太さに気が回らず、ここだけムッチリだったことだ
もしこれを読んで、実践しようって人がいたなら、俺の反省を生かしてさらなる高みを目指してほしいと強く願っているぜ!
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