青空文庫に知里幸惠さんの「アイヌ神謡集」が!

ぼやき箱
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アイヌ神謡集

知里幸惠さんという方は、明治生まれのアイヌ民族の女性です。

ぼくが見た資料からは、とても先進的で前向きで、学ぶことをやめない方という印象です。

そればかりか、同胞や広義のアイヌ(人という種)の行く末を想い、文字を持たない自分たちの物語を、アルファベットを利用し残すことに尽力した、とても優れた活動家だと思っています。

そんな幸惠さんが、金田一京助さんの協力を得て執筆・校正し、あと一息で出版というところで心臓麻痺により急逝。その遺作がこの「アイヌ神謡集」です。

全13編の独立したお話を集め、知里さんが編み出したアイヌ語の発音をアルファベットで表記する方法で書かれた原文と、和人の言葉に訳した文を見開きで掲載しています。

青空文庫

青空文庫というのは、インターネッツ上にある図書館のようなもので、

著作権の消滅した作品と、『自由に読んでもらってかまわない』とされたものを、テキストとXHTML(一部はHTML)形式に電子化した上で揃えています。

だそうです。

青空文庫 Aozora Bunko

 

アイヌ神謡集もデータ化され、その本文すべてが青空文庫で読めるので、ぜひ一度読んでみてください。きっと手元に置きたくなるはずなので、そしたら文庫を買いましょう。

知里幸惠編訳 アイヌ神謡集

【抜粋】アイヌ神謡集より「狐が自ら歌った謡『トワトワト』」

■原文英字表記

Chironnup yaieyukar,“Towa towa to”

Towa towa to
Shineanto ta armoisam un nunipeash kusu
sapash.
Shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
sapash kor shietok un inkarash awa
armoisam ta hunpe yan wa
ainupitoutar ushiyakko turpa kane
isoetapkar iso erimse ichautar irurautar
utasatasa nishpautar isoeonkamip(1)
emush ruikep armoisama kokunnatara,
chinukat chiki shino chieyaikopuntek.
“Hetakta usa tooani chikoshirepa
ponno poka chiahupkar okai.” ari
yainuash kushu “Ononno!(2) Ononno!” ari
hotuipaash kor,
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
payeash aine hankeno payeash inkarash awa
senneka shui inkarash kuni chiramuai
humpe yan ruwe nekuni patek chiramuap
armoisam ta setautar osomai an wa
poro shinupuri chishireanu,
newaanpe humpe ne kuni chiramu ruwe
ne rokokai.
Ainupitoutar isoerimse isoetapkar
usa icha usa irura kishiri nekuni
chiramurokpe shipashkurutar
shi tokpa shi charichari
tonta terke teta terke shirine awokai.
Irushkakeutum chiyaikore.
“Toishikimanaush towa towa to
wenshikimanaush towa towa to
sarpoki huraot towa towa to
sarpoki munin towa towa to
ointenu towa towa to
otaipenu towa towa to
inkar hetap neptap teta ki humi okai.”
Orowano shui
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
rutteksam peka hoyupuash kor
inkarash awa unetokta
chip an kane shiran kiko chiposhketa
ainu tunpish uniwente(3) kor okai,
“Usainetap shui nep achomatup
an wa tapne shirki kiya, senne nepeka
chipkohokush utar hene okai ruwe hean?
Hetakta usa nohankeno payeash wa
ainuorushpe chinu okai.”
yainuash kushu tapan hokokse(4)
chiriknapuni,
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
terkeash kane payeash wa inkarash awa
chip ne kuni chiramuap atuiteksamta an
shirar ne wa, ainu ne kuni chiramuap
tu porourir ne awokai.
Tu porourir tannerekuchi rurpa yonpa,
ikichi shiri uniwente an shirine pekor
chinukan ruwe ne awokai.
“Toishikimanaush, towa towa to
wenshikimanaush, towa towa to
sarpoki huraot, towa towa to
sarpoki munin, towa towa to
ointenu, towa towa to
otaipenu, towa towa to
inkar hetap neptap teta ki humi okai.”
Orowa no shui
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
terkeash kane petturashi payeash awa,
toop penata menoko tunpish
utka otta roshki kane uchishkar kor okai,
chinukar chiki chiehomatu,
“Usainetapshui nep wenpe an,
nep ashurek(5) wata uchishkaran(6) shiri
okaipe ne ya?
Hetaktausa shirepaash wa ainuorushpe
chinu okai.”
yainuash kushu,
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
terkeash kane payeash wa inkarash awa
pethontomta tu uraini roshki kanan ko,
tu uraiikushpe chiukururu ko,
tu menoko uko hepoki ukohetari kane
uchishkar shiri ne kuni chiramu ruwe
ne awokai,
“Toishikimanaush, towa towa to
wenshikimanaush, towa towa to
sarpoki huraot, towa towa to
sarpoki munin, towa towa to
ointenu, towa towa to
otaipenu, towa towa to
inkar hetap neptap teta ki humi okai.”
Orowano shui petturashi
shumatumu chashchash, towa towa to
nitumu chashchash, towa towa to
terkeash kane hoshippa ash wa arkiash.
Shietokun inkarash awa,
nekonne shiri ne nankora,
chiunchisehe nuikohopuni
kamuinish kata rikin shupuya
kutteknish ne, chinukar chiki
homatpaash yainuturainuash pakno
homatpaash, matrimimse(7) chiriknapuni
terkeash awa unetunankar hemantaanpe
taruipeutanke(8) riknapuni unteksamta
chitursere, inkarash awa chimachihi
homatuipor eun kane hese hawe taknatara:
“Chikor nishpa nekonne hawe tan?”
Hawash chiki inkarash awa neita tapne
chiseuhui an pokor inkarash awa
chiunchisehe ene ani nepkor
ash kane an, ape ka isam shupuya ka isam,
oroyachiki chimachihi iyuta ko
rapoketa rerarui wa tuituye amam
murihi rera paru shiri
shupuya nepkor chinukan ruwe ne rokokai.
Nunipeash yakka aep omukenash kashikunshui,
peutankeash wa chimachihi
ehomatu kushu, tuituye koran amam neyakka
mui turano eyapkir wa isam kushu,
tanukuran anak sayosakash,
irushkaash kushu chiamasotki sotkiasam
chikoyayoshura.
“Toishikimanaush, towa towa to
wenshikimanaush, towa towa to
sarpoki huraot, towa towa to
sarpoki munin, towa towa to
ointenu, towa towa to
otaipenu, towa towa to
inkar hetap neptap teta ki humi okai.”
ari
Chironnup tono yaieyukar.

(1) isoeonkami.iso は海幸,eonkami は……を謝す事.
鯨が岸で打ち上げられるのは,海の大神様が人間に下さる為に御自分で持って来て,岸へ打ち上げて下さるものだと信じて,その時は必ず重立った人が盛装して沖の方をむいて礼拝をします.
(2) ononno.これは海に山に猟に出た人が何か獲物を持って帰って来た時にそれを迎える人が口々に言う言葉です.
(3) uniwente……大水害のあと,火災のあと,火山の破裂のあと,その他種々な天災のあったあとなどに,または人が熊に喰われたり,海や川に落ちたり,その他なにによらず変った事で負傷したり,死んだりした場合に行う儀式の事.
その時は槍や刀のさきを互いに突き合せながらお悔みの言葉を交します.一つの村に罹災者が出来ると,近所の村々から沢山の代表者がその村に集ってその儀式を行いますが,一人と一人でも致します.
(4) hokokse……uniwente の時,また大へんな変り事が出来た時に神様に救いを求める時の男の叫び声.フオホホーイと,これは男に限ります.
(5) ashur は変った話,ek は来る.
……村から遠い所に旅に出た人が病気したとか死んだとかした時にその所からその人の故郷へ使者がその変事を知らせに来るとか,外の村で誰々が死にましたとか,何々の変った事がありましたとかと村へ人が知らせに来る事を云います.
その使者を ashurkorkur(変った話を持つ人)と云います.
ashurkorkur は村の近くへ来た時に先ず大声をあげて hokokse(フオホホーイ)をします.すると,それをききつけた村人は,やはり大声で叫びながら村はずれまで出迎えてその変り事をききます.
(6) uchishkar……泣き合う.これは女の挨拶,長く別れていて久しぶりで会った時,近親の者が死んだ時,誰かがなにか大変な危険にあって,やっと免れた時などに,女どうしで手を取り合ったり,頭や肩を抱き合ったりして泣く事.
(7) matrimimse(女の叫び声)……何か急変の場合または uniwente の場合,男は hokokse(フオホホーイ)と太い声を出しますが,女はほそくホーイと叫びます.
女の声は男の声よりも高く強くひびくので神々の耳にも先にはいると云います.それで急な変事が起った時には,男でも女の様にほそい声を出して,二声三声叫びます.
(8) peutanke……rimimse と同じ意ですが,これは普通よく用いられる言葉で,rimimse の方は少し難かしい言葉になっています.

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■日本語訳
狐が自ら歌った謡「トワトワト」

トワトワト
ある日に海辺へ食物を拾いに
出かけました.
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
行きながら自分の行手を見たところが
海辺に鯨が寄り上って
人間たちがみんな盛装して
海幸をば喜び舞い海幸をば喜び躍り肉を切る者運ぶ者が
行きって重立った人たちは海幸をば謝し拝む者
刀をとぐ者など浜一ぱいに黒く見えます.
私はそれを見ると大層喜びました.
「ああ早くあそこへ着いて
少しでもいいから貰いたいものだ」と
思って「ばんざーい! ばんざーい」と
叫びながら
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
行って行って近くへ行って見ましたら
ちっとも思いがけなかったのに
鯨が上ったのだとばかり思ったのは
浜辺に犬どもの便所があって
大きな糞の山があります,
それを鯨だと私は思ったので
ありました.
人間たちが海幸をば喜んで躍り海幸をば喜び舞い
肉を切ったりはこんだりしているのだと
私が思ったのはからすどもが
糞をつっつき糞を散らし散らし
その方へ飛びこの方へ飛びしているのでした.
私は腹が立ちました.
「眼の曇ったつまらない奴
眼の曇った悪い奴
尻尾の下の臭い奴
尻尾の下の腐った奴
お尻からやにの出る奴
お尻から汚い水の出る奴
なんという物の見方をしたのだろう.」
それからまた
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
海のそばから走りながら
見たところが私の行手に
舟があってその舟の中で
人間が二人互いにお悔みをのべています,
「おや,何の急変が
あるのでああいう事をしているのだろう,もしや
舟と一しょに引繰ひっくりかえった人でもあるのではないかしら,
おお早くずっと近くへ行って
人の話を聞きたいものだ.」
と思うのでフオホホーイと
高く叫んで
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
飛ぶようにして行って見たら
舟だと思ったのは浜辺にある
岩であって,人だと思ったのは
二羽の大きな鵜であったのでした.
二羽の大きな鵜が長い首をのばしたり縮めたり
しているのを悔みを言い合っている様に
私は見たのでありました.
「眼の曇ったつまらない奴
眼の曇った悪い奴
尻尾の下の臭い奴
尻尾の下の腐った奴
お尻からやにの出る奴
お尻から汚い水の出る奴
なんという物の見方をしたのだろう.」
それからまた
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
飛ぶ様にして川をのぼって行きましたところが
ずーっと川上に女が二人
浅瀬に立っていて泣き合っています.
私はそれを見てビックリして
「おや,なんの悪い事があって
なんの凶報が来てあんなに泣き合って
いるのだろう?
ああ早く着いて人の話を
聞きたいものだ.」
と思って
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
飛ぶ様にして行って見たら
川の中程に二つのやながあって
二つの簗のくいが流れにあたってグラグラ動いているのを
二人の女がうつむいたり仰むいたりして
泣き合っているのだと私は思ったの
でありました.
「眼の曇ったつまらぬ奴
眼の曇った悪い奴
尻尾の下の臭い奴
尻尾の下の腐った奴
お尻からやにの出る奴
お尻から汚い水の出る奴
なんという物の見方をしたのだろう.」
それからまた,川をのぼって
石の中ちゃらちゃら
木片の中ちゃらちゃら
飛ぶようにして帰って来ました.
自分の行手を見ましたところが
どうしたのだか
私の家が燃えあがって
大空へ立ちのぼる煙は
立ちこめた雲の様です.それを見た私は
ビックリして気を失うほど
驚きました.女の声で叫びながら
飛び上りますと,むこうから誰かが
大きな声でホーイと叫びながら私のそばへ
飛んで来ました.見るとそれは私の妻で
ビックリした顔色で息せききって,
「旦那様どうしたのですか?」
と云うので,見ると
火事の様に見えたのに
私の家はもとのまま
たっています.火もなし,煙もありません.
それは,私の妻が搗物つきものをしていると
その時に風が強く吹いて簸ている粟の
ぬかが吹き飛ばされるさまを
煙の様に私は見たのでありました.
食物を探しに出かけても食物も見付からず,その上に
また,私が大声を上げたので私の妻が
それに驚いて簸ていた粟をも
簸と一しょに放り飛ばしてしまったので
今夜は食べる事も出来ません
私は腹立たしくて床の底へ
身を投げて寝てしまいました.
「眼の曇ったつまらぬ奴
眼の曇った悪い奴
尻尾の下の臭い奴
尻尾の下の腐った奴
お尻からやにの出る奴
お尻から汚い水の出る奴
なんという物の見方をしたのだろう.」

狐のかしらが物語りました.

 

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